ご挨拶

Greeting

日本リウマチ学会臨床研究トレーニング合宿実行委員長挨拶

第1回日本リウマチ学会臨床研究トレーニング合宿実行委員長
日本リウマチ学会臨床研究推進委員会委員長
大阪リウマチ・膠原病クリニック院長

西本憲弘

日本リウマチ学会(JCR)では、2018年4月より臨床研究推進委員会を立ち上げました。この委員会のミッションは、学会員の臨床研究に関する知識と理解の向上、臨床研究を担う人材の育成を通して、日本からより質の高い臨床研究を発信することです。

免疫学の基礎的研究は、分子生物学的手法を取り入れ、免疫システムの精巧なメカニズム、すなわち、自己・非自己の識別にはじまり、多様性と特異性の獲得、そして記憶にいたる機構を明らかにしました。21世紀に入り、ヒトゲノム全構造が解読され、ゲノム情報を利用した疾患関連遺伝子の検索や病態解析が盛んに行われ、いくつかの免疫疾患では病因遺伝子も同定されています。免疫学の基礎的研究は、すでに臨床応用へと移り、これまで難治性といわれてきたリウマチ性疾患の治療においても、病態形成にかかわる特定の標的分子の機能のみを制御する分子標的治療法が今や可能となりました。これら新規の治療法は、従来難治性といわれたリウマチ性疾患の治療の枠組みを大きく変えつつあります。

さて、この領域における日本の基礎免疫学の高い貢献度に比べ、残念ながら、リウマチ性疾患に関する日本の臨床研究の貢献度は低いと言わざるをえません。日本のリウマチ性疾患の診療ガイドライン作成の基礎となるエビデンスは、質的にも量的にも勝る海外の臨床研究に強く依存しています。しかし、遺伝的な背景や社会的要因を含む環境因子の違いを考えれば、日本独自の臨床研究によるエビデンスの構築は不可欠です。

また、JCR学術集会における臨床研究に関する発表をみると、症例報告や単変量解析のみの研究が多くを占め、主要臨床医学雑誌に掲載されるレベルの研究は限られています。その原因の1つに、臨床研究に関する知識、得られた臨床情報を理解し活用する力、さらに表現する能力、すなわちリテラシーが不十分であることがあげられます。実際に、JCRの会員からは、臨床研究に興味はあるが、研究デザインや統計解析の方法に関する講習会を実施して欲しいという声が多数寄せられています。良質な臨床研究を実施することは、今後ますます重要になることは確実であり、JCRの会員が、国際水準の良質な臨床研究を発信していくためには、学会として積極的に臨床研究の教育に力をいれるべきと考えています。

そこで、JCR臨床研究推進委員会では、若手研究者を対象としたJCR臨床研究トレーニング合宿を開催させていただくことになりました。本合宿では、二泊三日にわたり、ショートレクチャーと5人1組のグループワークを通して、臨床研究のリテラシーを学びながら、実際に研究プロトコールを作成して頂きます。最終日には各グループに発表していただき、最優秀賞を選出いたします。また、この合宿のもう1つの目的は、多くの専門家や臨床研究に興味のある仲間と知り合うことです。濃厚な3日間をお過ごしいただき、今後の臨床研究の仲間をつくっていただくことを大いに期待いたしております。